TL;DR
『イノベーション・オブ・ライフ』を読んだので感想と読書メモを残しておく。
感想
友人に勧められて本書を読むことにしたが、個人的には今後も振り返りたくなる内容で良本だと思った。特にインパクトが強いのは第一部で、私は来年度から本格的に就活に向き合わなければいけないので、「どんなキャリアを築くことが人生の幸せにつながるのか」の考え方を学べたのは良かった。(もちろんこれは就活に限らず今後ずっと考えてるべきことだと思う。)
本書を読んで、これまで高専・大学と情報工学を学んできたことを活かし、ソフトウェアエンジニアになりたいという気持ちはより強くなった。一方で、自分の視野の狭さを感じるシーンは多々あるので、もっと視野を広げればやりたい職種は他にもあるんだろうなと思った。残りの学生生活は短いが、社会人になるまでは創発的な機会を見逃さないよう、様々なことに興味を持つ姿勢を持ちたいと思った。
他にも、本書の最初の方で研究員のダイアナにまつわるエピソードがあり、そこでのマネジメントという職業についての言及は印象的だった。
だが、ダイアナが研究所で過ごす毎日が、彼女の家庭におよぼす影響について思いをめぐらせるうちに、こう確信するようになった。人のためになる仕事をするには経営者になればいいのだと。マネジメントとは、立派に実践すれば最も崇高な職業の一つだ。経営者は自分の元で働く一人ひとりから、毎日八時間ないし、十時間という時間を預かる立場にある。また、従業員が毎日仕事を終えて、良い一日を過ごした時のダイアナのように、動機づけ要因に満ち溢れた生活を送っているという満足感をいだきながら家に帰れるよう、ひとりひとりの仕事を組み立てる責任を担っている。
上記の引用では主語が経営者となっているが、この主張はチームや組織の上に立つ役職であれば同様に当てはまると思った。これを読んで、マネジメントとはまさに「人のためになる仕事である」と考えを改めたし、これくらい高い視座で働けたら本当に素晴らしいと思った。
いまのところ、本書に載っている理論は簡単な例を通してわかった気になっているものが多いので、また時間を空けて読んでみたい。重要なのは「何を考えるか」ではなく「どう考えるか」を知ることだとあり、たしかにその通りなのでちゃんとそこまでできればと思う。
内容(読書メモ)
本書は「自分の人生を評価するものさしは何か?」を見出すために、経営学の理論を用いて、次の3つの問いに答えようとするものである。
- どうすれば幸せで成功するキャリアを歩めるだろう?
- どうすれば伴侶や家族、親族、親しい友人たちとの関係を、ゆるぎない幸せのよりどころにできるだろう?
- どうすれば誠実な人生を送り、罪人にならずにいられるだろう?
各部では経営学の理論とその理論が引き起こす直感的な事例が紹介される。
本書で紹介する理論は、人間の営みに対する深い理解──「何が、何を、なぜ引き起こすのか」──に支えられており、また、世界中の組織によって徹底的に検証、活用されてきた。
優れた理論は、「気が変わる」ことがない。一部の企業や人にだけあてはまり、ほかにはあてはまらないということはない。
本書では各章で一つずつ理論を取り上げ、それを一つの問題にあてはめるという構成を取っている。
第一部: 幸せなキャリアを歩む
「幸せなキャリアを歩めているならば、きっと毎朝、自分のやっていることをやれる幸せをかみしめながら目覚めることができる」
優先事項(あなたがキャリアで最も重視すること)について
動機づけ理論。
衛生要因と動機づけ要因をちゃんと分けて捉えること。自分にとっての動機づけ要因をみつけること。
理想のキャリアを探す計画、計画と思いがけない機会のバランスについて
発見志向計画法。
意図的戦略と創発的戦略を理解して行動すること。複数の創発的機会に対しては、「どの仮定の正しさが証明されればよいか」を考え選択すること。
戦略の実行、資源配分について
資源配分のパラドックス。
資源配分のプロセスを意識して管理すること。正しい戦略を脳内で描いていたとしても、人は無意識のうちに、短期的に見返りが得られる安易な選択をしてしまう。
達成動機の高い人たち陥りやすい危険は、いますぐ目に見える成果を生む活動に、無意識のうちに資源を配分してしまうことだ。
同級生たちは昇進や昇給、ボーナスなどの見返りがいますぐ得られるものを優先し、立派な子供を育てると言った、長い間手をかける必要があるもの、何十年も経たないと見返りが得られないものをおろそかにした。
第二部: 幸せな関係を築く
「家族や親しい友人との、親密で愛情に満ちた、揺るぎない関係は、人生で最も深い喜びを与えてくれる物の一つだ。」
資源配分の優先順位、人間関係の性質について
良い資本と悪い資本。
キャリアの中だけでなく、キャリアとその他のもの(本章では家族や友人)においても、資源配分を自分の優先順位とすり合わせて行わなければならない。この時注意しなければならないのは、家族や子供を相手にする場合は、(企業やキャリアと異なり)思うようにコントロールできないことが多いこと、そして、人生においては投資の順番を好きなように変えられる物ばかりではないということ。(本章は理論でいう所の「成長」と「利益」が人生においてどう対応するのかうまく理解できなかった。「時間や労力の量」と「幸福」だろうか。)
モノや人の役割について
片付けるべき用事。
ミルクシェイクの企業施策の例にもある通り、人間関係においても自分がどのような用事を片付けるために雇われているかを自問することが重要である。自分の中で勝手に決めつけるのではなく、真に相手が大切にしていること、必要としていることを理解しようと努めることが大切である。そして、その役割を実際に実行に移し、献身的にならなければならない。献身は愛情に転化する。そのために時には自分の優先事項や希みを後回しにする必要があるかもしれない。同じように相手にも献身的になれる機会を与えよう。
片付けるべき用事のレンズを通して結婚生活を見れば、お互いに対しても最も誠実な夫婦とは、お互いが片付けなければならない用事を理解した二人であり、その仕事を確実に、そしてうまく片付けている2人だとわかる。
人の能力について
資源、プロセス、優先事項の能力モデル。
企業と同様、人も「資源」、「プロセス」、「優先事項」の3つに分けて捉えることができる。子供にたくさんの習い事をさせ、自分が素晴らしい親だと思いこみたい人は多くいるが、それはもしかしたら子供から学んだことを基に新しいものを生み出したり、新しい問題に自ら答えを出そうとする営み(プロセスを育む機会)を奪っている行為かもしれない。また子供は学ぶ準備ができた時に学ぶということを肝に銘じなければならない。
「子どもたちが里帰りをすると、みんなで子供時代のことをからかいあったり、人生に一番影響を与えた出来事について話すの。でも彼らが重要だったというできごとを、わたしはたいてい覚えていないのよ。それに事務と私が、我が家の価値観の根底をなす大切なことを、腰を据えて教えたときのことを尋ねると、なんと子どもたちは何一つ覚えていないの。つまり教訓は、子供たちは学ぶ準備ができた時に学ぶのであって、わたしたちが教える準備ができた時に学ぶわけではない、ってことね。」
キャリアに必要な能力の見極め方について
「正しい資質」モデル、「経験の学校」モデル。
「正しい資質」モデルは人の「資源」に注目するものである。ビジネスにおいて、人は生まれつきの才能によって決まると考え、単に経歴の華やかさから彼らを見つけ出そうとすることは間違っている。もしそれが正しいなら、ある企業では輝かしい実績を残した幹部が、別の企業で失敗し、追放される例をどのように説明できるだろうか。一方、「経験の学校」モデルはその人の「プロセス」(経験)に注目する。これからアサインしようとしている職務の内容とその人が経験してきたことを比べれば、その人がこの職務でどんな行動を取るのかを予測でき、より適切に評価できる。そのような理論から、あなたがこれから考えるキャリアの選択においては、得られる収入や名声でなく、どのような経験が得られるかという視点に立って考えるべきである。重要な問いは「この仕事は、私が将来立ち向かう必要のある経験をさせてくれるだろうか」ということである。
文化の創造について
文化。
文化とは、経営者が不在であっても、各従業員が問題解決を際してもつべき優先事項を示すものである。文化は意識的に築くこともできるし、自然に生まれることもある。エドガー・シャインは以下のように定義した。
文化とは、共通の目標に向かって力を合わせて取り組む方法である。その方法はきわめて頻繁に用いられ、きわめて高い成果を生むため、誰もそれ以外の方法で行おうとは思わなくなる。文化が形成されると、従業員は成功するために必要なことを自律的に行うようになる。
同じように、自分の子供が厳しい選択を迫られた時に、正しい選択ができるように手助けするためには、家庭の文化・価値観を形成し指針を与えることが重要である。
第三部: 罪人にならない
誠実な人生を確実に送るには、どうすればいいだろうか?
妥協しないことの大切さ
総費用と限界費用の考え方。
限界思考の考え方で行動しているといつかは総費用を払うことになる。競合やライバルと戦うときだけでなく、人生のあらゆる選択において、既存のアセットに囚われず投資することの重要性を頭にとどめておこう。